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  • 2014.03.05 Wednesday
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なぜ世界は保守化するか 序 エドマンド・バークにみる「正統な」保守主義

日本と世界の「保守化」
日本の保守化は、その賛否はともあれ、いまや多くのひとが認めるところでしょう。自民党が提示している憲法改正草案は、全体としてはそれほどでないにせよ、その前文は極めて復古調です。政治的な関係の悪化にともない、実際に縁を切れるはずもないにもかかわらず(あるいはそれ故に)、中国、韓国に対する排他的な感情の広がりは隠しようもなく、昨年10月の内閣府による意識調査では、「中国に親しみを感じない」「韓国に親しみを感じない」が、それぞれ前年度より9.2ポイント、23.7ポイント増加して、80.6パーセント、59.0パーセントとなっています。また、近年では若い女性の専業主婦志向がいわれます。経済停滞へのをはじめ、男女対等がいわれながらも職場や雇用機会で必ずしも対等でないことへの反動など、要因はいくつか考えられるとしても、いずれにせよこれも広い意味での保守化といえるでしょう。

いわば朝野をあげた保守化の波は、しかし日本に限ったことではありません。日本でもよく知られる、連邦政府の権限拡大とオバマケアに反対する米国のティーパーティー運動は、開拓時代からの「自己責任」の精神を尊重する点で、米国版の保守主義です。ヨーロッパ各国だけでなく、ロシアや南アフリカなどの新興国でも、外国人嫌いや移民排斥運動が広がりをみせています。中国では、毛沢東思想の復興とあわせてナショナリズムの高揚が指摘されています。

保守主義とは何か
これらはいずれも、広く言えば「保守主義」あるいはそれに類する思想の広がりを示すといえるかもしれません。ただし、注意しなければならないことは、それが本来の保守主義とは必ずしも一致しないところがある、ということです。

近代以降のイデオロギーには、大きく三つの潮流があります。自由主義、社会主義、保守主義です。このうち、保守主義は18世紀英国のエドマンド・バークをその始祖とします。下院議員だったバークは、しかしフランス革命を痛罵した『フランス革命の省察』の執筆で、歴史にその名を刻むことになりました。

バークによるフランス革命批判は、極めて多岐に渡る論点を含んでいますが、その基本的な発想を敢えて要約すれば、以下の4点にまとめることができます。
  1. 人間の理性には限界があるため、是非善悪を全く客観的に判断することはできない。
  2. 不完全である以上、理性のみに基づいて既存の社会を改革することは、予期せぬ結果をももたらし得るため、危険である。
  3. 一方で、今の社会、習慣、価値観などは、先人たちが繰り返した試行錯誤の末に生まれてきたものであり、不完全で非合理的であったとしても、間違いが少ないがゆえに生き残ってきたものである。
  4. ゆえに、完全な理性を望めない人間は、伝統という「偏見」のなかで生きていかざるを得ないし、それにのっとった生き方の方が正しい。

理性への懐疑
バークが生きた18世紀、ヨーロッパは「理性の時代」でした。ドイツのカントに代表されるように、人間の理性に無限の期待を寄せ、絶対王政のもとでの「無知蒙昧」を批判する啓蒙思想が広がりました。そのピークが、1789年のフランス革命でした。アメリカ革命がアメリカ合衆国の独立という極めて一国単位の特徴が強かったのに対して、フランス革命で発布されたのは「人権宣言」でした。つまり、国単位で区切られることなく、人間が人間である以上、すべからく持つべき権利が謳われたのです。この普遍性こそ、理性や啓蒙思想の一つの到達点であり、その後の人権規範の基盤になったといえるでしょう。

ただし、革命後のフランスで、「反革命的」とみなされた人々が、国民公会によって相次いで断頭台に送られた「恐怖政治」が示すように、いわば剥き出しの理性は、社会を際限のない混沌に突き落とすことにもなりがちです。「もし貧困からの解放と人民の幸福が革命の唯一真実の目的であるとするなら、『偉大な犯罪ほど徳に似ているものはない』というサン=ジュストの青年らしい冒涜的な機知は、ただ日常的な観察の結果にすぎなかった。なぜなら、実際、『革命的進路を目指して行動している人びとには』すべてが『許され』なければならないということになったからである」【ハンナ・アレント(1995)『革命について』(志水速雄訳)、筑摩書房、136頁】。

一般に信じられているのと異なり、絶対王政時代のフランスが、当時「平民」と呼ばれた人々にとってだけでなく、多くの貴族にとってさえも住みやすいものでなかったことは、アレクシ・ド・トクヴィルの『アンシャン・レジームと革命』からもうかがえます。さらに、「『正しいこと』を実現するためには、『正しくない』ものを排除せねばならない」という発想は、分かりやすいかもしれませんが、無菌状態の実験室や手術室と異なり、あるいは勧善懲悪の時代劇や西部劇と異なり、現実の人間社会は限りなく複雑で、ある一面からみて「正しいこと」が、他面からみて「正しくないこと」は珍しくありません。のみならず、動機づけは「正しい」ものでも、それに基づく行動が常に「正しい」結果をもたらすとは限りません。国民公会の成立以前に書かれた『省察』のなかでバークは、人間の限られた理性で既存の社会を裁断し、一方的に断罪することに、独裁の予兆をかぎとっています

そのうえで、バークは人間の行動規範として、理性ではなく伝統をあげています。「伝統」とは多くの人間が長い時間をかけて積み上げてきた営為の結晶体であり、これが存続しているということは、たとえ不完全であっても、大きく間違っていないことを意味する、ということです。これに従えば、歴史を通じた「自然のなりゆき(natural cource of things)」のなかで生まれてきた価値観に沿って行動する方が、「正しい結果」にたどり着く確率が高くなります。バークはこれを敢えて「偏見」と名づけ、「理性の時代」にあって、人間の理性の限界を強調し、従来の社会や価値観を尊重する論陣を張ったのです。

バーク保守主義の非民主性
バークの掲げた主張は、「理性によって見出される、人間としての普遍的な権利」を認めるフランス革命の理念と根本的に衝突するものでした。当時、英国では既に議会選挙が実施され、国王の専制から人権は法によって保護されていました。しかし、バークにとってこれらの自由は、英国の歴史的産物であり、英国という特定の社会の成員にのみ引き継がれる生得権でした。つまり、それらの権利が保護されるのは、「人間として」ではなく「英国人として」だったのです。バークにとって、人間とは固有の伝統や文化でのみ生きられるものであり、それらと無縁の理性的・抽象的な「人間」というものはあり得なかったといえるでしょう。この観点からすれば、「人間としての権利」とは絵空事に他なりません。

外国人との識別だけでなく、バークは英国人のなかでの身分に基づく権利の差異を積極的に承認しました。その象徴は、当時英国で浮上していた、普通選挙権をめぐる問題への対応でした。産業革命により、資本家層の発言力が増し、従来の大土地所有者以外にも選挙権を認めるべきという論調が高まるなか、バークはこれに反対しています。普通選挙が議員を有権者に対する「投票請願者」にし、大所高所からの判断を難しくするというのが、その理由でした。有権者の移り気な投票行動への警戒感は、理解できなくもありませんが、少なくともその立場が民主的と言い難いものだったことは確かです。良くも悪くも、バークは万人の平等ではなく、社会の有機的な一体性、言い換えればタテ系列の社会を重視する貴族主義者だったといえるでしょう。

これを反映して、バークは「人類愛」より「家族愛」「郷土愛」を優先させています。「小さな部分に愛着をもつこと、社会の中で自分が所属する小さな群れを愛することは、公共的愛情の第一の動機である。これこそ祖国愛からひいては人類愛へと我々を導いていく長い連鎖の第一環である」。つまり、家族や郷土といった具体的な集団、土地への愛着をもつ人間が群れることで社会が、国家が、人類ができているのであり、その最初の部分を愛することが全ての始まりだというのです。これは、例えばJ.J.ルソーなどの社会契約論者が、国家・社会だけでなく家族すら契約によって成り立つと捉えたのと対照的で、いわば血縁・地縁という、人為によって左右されない、共同体的な結びつきを重視するものといえるでしょう。

バークの進歩性
一方、バークの主張には、本人の意図にかかわらず、進歩的な側面もありました。『フランス革命の省察』は当時の英国王ジョージ3世からも絶賛されましたが、バーク自身はジョージ3世とも対立していたのです。ジョージ3世は国王が実質的な政治権力をもつ親政を復活させることを図っていましたが、これは1688年の名誉革命によって生まれた「国王は君臨すれども統治せず」の原則に逆行するものでした。

既に述べたように、バークは歴史的な営為の積み重ね、言い換えれば「自然のなりゆき」がもつ拘束力を重視しました。英国では名誉革命によって国王(君主政)、世襲の上院(貴族政)、選挙を通じた下院(民主政)の混合政体が生まれました。一見したところ、パッチワークのような、あるいは増築に増築を重ねた家のような、整合性のないものです。しかし、理性的にみれば「正しい」かどうか疑わしくとも、それが一定の期間、存続してきたことは、それが社会に根付いていることを示します。それを人為でひっくり返すことが、「正しい」結果に帰結するという保障はありません。つまり、バークにとって名誉革命体制は、それが「本当に正しい」かどうかではなく、実際に一定の期間を通じて存続してきたこと自体に価値があるものだったのです。そのため、後に「保守主義の元祖」と位置付けられながらも、バークがジョージ3世と対立したことは、不思議ではありません。

これに加えて、バークは議会政治の確立に努めたことでも知られます。「議員は選挙区のではなく国民全体の代表」という観念は、バークが打ち出したものです。さらに、当時は同じ主張のグループが集まる政党は「徒党」とみなされていましたが、特定のグループの利益ではなく、国民全体の利益の実現を念頭に置いた政党の発展が議会政治に欠かせないと主張したのも、確認される限り、バークが最初でした。

保守主義の身上としてのバランス感覚
こうしてみてくると、「保守主義の元祖」と位置付けられるバークに、柔軟な発想があったことが分かります。バークによると、「何か変更のための手段をもたない国家は、自らを保存する手段をもたない」。つまり、時代の変化に応じて、伝統の核心部分を守るための改革はいとわない、というのがバークの立場でした。さらに、自らを指して、「一貫性を保とうとするひと、しかし彼の目標の統一を確保するための手段を変えることによって一貫性を保とうとしたひと、そして彼が乗っている船の均衡が一方に積み荷をしすぎて危険になるようなときには、その均衡を保つ方に彼の理性というささやかな重しを運ぶことを願っているひと」と説明しています。これはすなわち、バランス感覚を旨とするということです。

一般的に、保守的というと頭が固いひと、時代の流れに合わないひとを指す言葉として使われているように思います。しかし、少なくともバークは単純な王政支持者でなかっただけでなく、昔に戻ることをよしとする復古主義者でもありませんでした。旧来の伝統をいかにして現状に適応させて活かし続けるかが、その最大の関心だったといえるでしょう。

これに照らして、例えば日本の話に戻れば、安倍総理の「戦後レジームからの脱却」という言葉に表されるように、戦後60年間の歴史をなかったかのように扱うことが、果たして「保守主義」の名に値するかは疑問です。確かに、日本国憲法は必ずしも当時の日本人の意思で作成されたものでないかもしれません。また、どんな状況になろうとも、一行も書き換えさせないというのは、これまた教条主義といえるでしょう。とはいえ、いかなる経緯であれ、既に社会に根付いているものを根底からひっくり返すことは、バークの「バランス感覚」とはかけ離れたものです。

「正統でない」保守化はなぜ進むか
しかし、これはひとり日本に限ったことではありません。英国人と外国人の権利を識別したバークの主張にあるように、保守主義にはもともとある程度のナショナリズムが含まれます。しかし、例えば近年のヨーロッパの排外主義は、保守主義よりさらに「右」にあるものです。すなわち、今の世界でみられる保守化とは、正統な保守主義の復興という次元でなく、それがよりラディカルに表れているものといえるでしょう。

過ぎたるは猶及ばざるが如し」というように、何事も行き過ぎれば問題です。自由主義が行き過ぎれば、世界がパーマネントトラベラーであふれることになります。社会主義が行き過ぎれば、革命の嵐が吹き荒れます。そして、保守主義も行き過ぎば、他者の権利や尊厳を無視する傾向が強くなります。

果たして、このような「正統でない」保守化は、なぜ世界で進むのでしょうか。次回から、これを考えていきたいと思います。

ところで、今回紹介したバークは、先日発売されたKindle版『佐門准教授と12人の哲学者』にも登場します。そちらでも書いたのですが、一般的な知名度が、欧米諸国と日本でこれほどギャップのある哲学者も珍しいように思います。しかし、歴史的な経緯を重視するその視点は、今日の「経路依存性」に関する議論にも影響を及ぼしています。また、日本でも有名になったマイケル・サンデルらの共同体主義は、基本的にはバーク保守主義の延長線上にあります。これらに関心のある方も、ない方も、ご一読いただければ幸いです。尚、現在英語版の準備が最終段階です。西洋政治哲学をアジア人がアレンジした作品を携えて、近日グローバル市場に進出する予定です。これもある意味で、「自然のなりゆき」なのかもしれません。

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