スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

  • 2014.03.05 Wednesday
  • -
  • -
  • -
  • -
  • -
  • by スポンサードリンク

「柔らかい全体主義」考 (3) 原子化された社会と共感したがる個人

  書館で『宣伝会議』最新号を見かけました。「共感が時代のテーマ」という特集でした。普段は別に読まない雑誌なのですが、特集に引かれて見てみました。早い話が人間の非言語コミュニケーション機能をいかに刺激するできるかが宣伝広告のカギ、ということでした。

別段、『宣伝会議』を批判するつもりはないのですが、「涙を誘う表現は共感を呼びやすい」などというふうに、人間の非言語コミュニケーション機能を刺激する行為そのものは、一歩間違えれば、人の心の中に土足で踏み込むことにもなりかねません。そして、前世紀の歴史からは、その危険性をいくつも見出すことができます。

その典型が、ナチスの集会です。ナチスは公式のイデオロギーだけでなく、「アーリア人の優越性」といったメンタリティの共有によって支えられていました。古代ローマを思い起こさせるコロッセウム状の建物に大勢の人間を集める、ワーグナーをはじめとする印象的な音楽を大音量で流す、ドイツのシンボルであるワシをモチーフにした旗やタペストリーで周囲を飾る……。どれもこれも、いわゆる視覚や聴覚に訴え、非言語コミュニケーションによって人間の内面奥深くに入り込んでいく手法です。

「別に何かを排斥しているわけでなく、合法的なビジネスなんだから、何もそこでナチスを引き合いにだすことはない」という批判もあると思います。もちろん、企業の宣伝広告をナチスの宣伝と同列に扱うつもりはありません。ただ、「共感」という非言語コミュニケーションに働きかけることが、理性的、論理的な批判を経ない、感情に基づく反応に帰結しがちで、これを期待している点で、両者は同じです。

この「共感」に働きかける手法は、社会が原子化・個人化したことの裏返しといえるでしょう。働き方や嗜好が細分化し、家族ですらほとんど共通の話題を持ち得ない。一方で、法の下の平等は確立されている。けれども、将来(あるいは震災後の現状)に対する漠然とした不安がある。

E.フロムの古典的名著「自由からの逃走」は、当時世界で最も平等で民主的といわれたワイマール共和国で、なぜナチスが生まれたかを主題としています。端的にいえば、当時のドイツ人は自由であること、平等であることに耐え切れなくなったのです。自由であることは、全てが自己責任になると同時に、自分のことを自分で決めなければならなくなる。これは、一面において解放ですが、個人に普段のプレッシャーをもたらすものです。うまくいかなかったときに、誰かのせいにしにくくなるだけでなく、誰かの支配を受けることもない代わりに、誰かに依存することもできない。

去年、「ゲゲゲの女房」についてブログ上で書いたことですが、なぜあのドラマが人気があったか。一つの理由としてあげられるのが、そこにある有機的な人間関係と、権威ある父親が決めたことに従うことで幸せになれるという不条理なまでの従属関係が、原子化され、自己責任を原則とする現代と対極の時代を描き、そこに憧憬の念を抱く人がおおかったことの表れだったといえます。言い換えれば、他人と共感したい、誰かの拘束のもとで安心感を得たい、という心理の裏返しだったのではないか、と思うのです。

個人化が進んでプライバシーにうるさくなる一方で、基本的に個人はあらゆることの決定を個人に任せる個人化のプレッシャーに耐えられるものではありません。個人主義が当たり前であるかのように言われるアメリカですら、神経科あるいは精神科が大はやりであることは、その証左です。その結果、逆説的ですが有機的な人間関係による安心感を求めようとします。これが、「共感」を求める土壌を生んでいるわけです。

他人の幸・不幸に反応することは批判されることではないでしょう。ただし、個人が原子化し、その寂寥感を生めるために共感を求める心理が生まれ、それを活用するシステムが民間企業やネット空間など、社会全体で構築されてきているとすれば、誰もがその「共感」から自由でなく、それをむしろ強制されることになります。政治権力によってでなく、民間企業や社会全体がそれを推し進めるところに、「柔らかい全体主義」がもつ波及効果の大きさをうかがうことができるのです。

スポンサーサイト

  • 2014.03.05 Wednesday
  • -
  • 18:19
  • -
  • -
  • -
  • -
  • by スポンサードリンク

コメント
コメントする








   
この記事のトラックバックURL
トラックバック

iPad用の電子書籍アプリを作りました![佐門准教授と12人の哲学者]


公式サイト

カレンダー

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< July 2017 >>

最新エントリー

カテゴリー

アーカイブ

プロフィール

search this site.

sponsored links

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM